2010年4月
マルチハル派



ヨットの楽しみ方は人によって様々で、レースが好きな人、長距離クルージングに出るのを目的としている人、海に出ることは滅多になくても、マリーナに停泊している船上で過ごす時間が好きな人、コツコツと時間をかけて修理や自作でヨットを完成させることが好きで、セーリングやヨットで遊ぶことにはあまり関心がないヨット好きもいます。

それで、やはり自分の船も欲しくなってくるのですが、選ぶとなると、趣味の乗り物なので、車のように実用性のことはあまり考えません。
ヨットの種類も、形から大きく分けると、モノハルと呼んでいる普通の形の船体と、双胴のカタマランや細いカヌーのようなメインの船体にアウトリガーを両側に付けたトリマランなどの多数のハル(船体)を持っているマルチハルがあって、その二つからはさらに、レースタイプ、長距離クルージングタイプ、居住性重視型などがあります。

マルチハルは幅が広いので、所有するとなると、置き場所や、マリーナでの係留費などの問題があって、日本では非常に少ない艇種です。
幅が広いメリットとしては、安定がいい、傾かなくてあまり揺れない、モノハルのように傾きを抑えるためのオモリやが必要ないので軽い、水中部分は細くて抵抗が少ないのでスピードが出る、水上部分は幅の広い分、居住スペースが大きく取れるといった利点が多くあるのだけど、実際の艇種選びには、諸般の理由と、ハイテックが進んでいるヨットでも、意外と昔からの伝統的な船体の方が安心感があると考える人が多く、どうしてもモノハルになってしまいます。

少数派のマルチハルなのだけど、私は最初に乗ったのが小さいカタマランで、今のチャーターヨットもカタマラン、レッスン・ガイドをしているホビー・キャットも双胴です。
マルチハルにこだわっている訳ではないのだけど、以前に、大切に乗っていたモノハルのクルーザーを係留中に沈めてしまったことがあってからヨット嫌いになり、もうヨットには乗ることもないだろうと思った時期もあったのだけど、ある時にホビーキャットに乗る機会があり、マルチハルの異様な形は今までとは全く違う乗り物のようで、スタートダッシュをするような走り方も、反対に不安なく乗ることが出来て、ヨットの楽しさを取り戻しました。

さらに何年もして、私がパラオに来るきっかけにもなった、全長18メートル、幅14メートル、翼を広げたような三胴の船体の、オーストラリアでは外洋レースをしていたレーシング・トリマランとの出会いがありました。
そのヨットは、パラオでヨットクルーズの仕事を考えていた会社が、オーストラリアにあったそのヨットを、オーナーが艇長をするということを条件で買ってきて、パラオ人をクルーにトレーニングをしていたのだけど、言うこと聞いてくれないパラオ人に愛想を尽かして母国に帰ってからは、代わりの船長を募集しても、その大きさと、とんでもなく出るスピードで引き受ける人がいなくて2年以上係留されたままになっていました。
最初はそんな事情も何も知らなくてパラオに遊びに来た時に、みんな尻込みをしたレーシング・トリマランに乗ってみたいと思い、後にその艇長になったのもマルチハルとの係わりが運命的なのかもしれません。

パラオでホビーキャットの仕事をしていると、日本から来たヨットマンの観光客に出会うことが多いのだけど、普通のモノハルには長く乗っているけど、カタマランは初めてという人がほとんどで、私のように極端なマルチハル派は珍しいかもしれません。
ヨット未経験の人も、カタマランが初めての人も、パラオに来たら気軽に乗れるホビーキャットでマルチハルを楽しんで、ヨットのイメージを変えてみてください。